2008-08-01から1ヶ月間の記事一覧

移民前夜(2/5)

2 最初、祖国のお偉方はデモをガス抜き程度に考えていた。焦土作戦により発生した大量の難民が、ステップを彷徨う過程で蛮族に一人残らず平らげられた事件も、このデモの鎮火と同時に忘れ去られるだろうと踏んでいたのだ。それは間違いだった。途中経過を省…

移民前夜(1/5)

1 親の獲得した行動が遺伝するよう改変された母体から生れ落ちた彼は即ち純正の開拓者だった。つまり、馬鹿げた熱帯の、馬鹿げたジャングルの、馬鹿げた緑の大伽藍を木っ端微塵にして村を作り、祖国の版図を広げることこそ、彼が生れた瞬間に定められた使命…

最近あったうれしいこと

・古川日出男『聖家族』の仮綴本届く。歓喜、そして法悦。すごいぞ、この小説は。やはり『古川日出男』っていうジャンルを作るべきだと思う。なんつったら当の古川日出男はムっとするだろうけど。 ・神保町の古書店にて、サンリオ文庫版『ヴァリス』を四百円…

らっこの言葉

らっこの赤ちゃんが死んだという。六時ぐらいのニュースで見た。赤ちゃんらっこをお腹に乗せた母らっこに、父らっこが、いつもの調子でじゃれついたのが原因らしい。母らっこに対しての甘噛みは狙いを外れ、赤ちゃんらっこのお腹をずたずたに引き裂くことに…

天使を拾う

おれは天使なんか拾わないでここまで生きてきた。少なくともこれまでの人生に天使を拾っておけばよかったと後悔するような日は来なかったし、それが三十年続けば今後とも恐らく大した変化は無いだろうと思ったからだ。 墓場がひっそり埋もれる松林を抜けて堤…